求人情報 介護職・介護福祉士・理学療法士PT・作業療法士OT・言語聴覚士ST・医師・薬剤師・介護支援専門員・看護師・管理栄養士・栄養士の求人情報

ホーム > 特集記事 > 過去の特集記事 > 老健って何? 高齢者リハに魅力はあるの?

老健って何? 高齢者リハに魅力はあるの?

老健って何? 高齢者リハに魅力はあるの?
(2008年8月31日公開)


地域のリハセンター「老健リハ」は面白い!

老健って何? 高齢者リハに魅力はあるの? ……そんなふうに思っている学生さんも多いかもしれません。
でも、現実を考えてみてください。
高齢化率20%を超える世界一の長寿国ニッポン。ならばリハのユーザーも、どう考えても高齢者が中心になります。一方、医療提供システムの改革により、健康保険(医療保険)でみるリハは、徐々に提供期間がせばめられる傾向にあり、これからの高齢者リハは、老健がその中核になっていかざるをえない状況になってきています。ここでは、老健の全国組織である「全国老人保健施設協会(全老健)」会長の川合秀治さん、リハ専門職養成校の全国組織の「全国理学療法士・作業療法士学校連絡協議会(全国理・作校協会)」会長の土肥信之さんに、これから求められるリハと、老健リハの面白さを語っていただきました。

意欲を引き出すリハビリテーション

川合秀治全老健会長(以下、川合) 今日は、いま必要とされているリハビリテーションとは何か、さらに、そういうリハビリテーションを提供するために何が必要なのかについて話をしたいと思います。
最初に、私とリハビリテーションとのかかわりをお話します。私は親兄弟が医師という医師一家に育ち、私自身も医師になりました。専門が外科ですからリハビリテーションと無縁ではありませんが、医師になってしばらくの間はリハビリテーションに特段の関心をもっていませんでした。

そんな私がリハビリテーションに関心をもつようになったきっかけとなったのが、身内の病気です。いまから30年近く前、当時、法人の理事長だった兄が倒れ、入院しました。手術は成功し、順調に回復していったのですが、リハビリテーションがすすまない。病気は軽快していくのに、元気がなく、後遺症も残ったままでした。時間だけがいたずらに過ぎていきました。

兄が入院していたのは有名な関東の病院でしたが、こちらも病院があるわけですから、そういう状況にしびれを切らして、迎えに行って帰阪、転院させることにしたのです。
とにかく元気がないわけです。そこをなんとかしなければと思って、私は兄を病院に迎え入れる際に、病院スタッフを集めて「理事長、お帰りなさい」という、簡単なセレモニーをしたのです。すると、「自分が必要とされている」と感じたからでしょうか、不思議なことに兄は少しずつ元気になり、意欲も出てきました。それからリハビリテーションを始めると、ほどなく歩けるようになりました。

そのときリハビリテーションの重要性とともに、意欲を高める支援をすることがリハビリテーションを行うにあたっては不可欠なのだとつくづく実感したのです。

自分の存在価値をわかってもらうこと

川合 その後、新しい高齢者専門の病院を作ることになりました。当時はリハビリテーションの専門職の確保がとても困難な時代でしたが、その病院ではリハビリテーションに力を注ぎたいと考えました。
ただ、入院患者さんは高齢者で、しかも認知症の方がほとんどでした。
そういう方々にどのようにリハビリテーションを行えばいいのか。そのとき思い出したのが兄のエピソードです。自分が必要とされている、期待されているとわかったら、意欲が出てリハビリテーションができるのではないか。リハビリテーションを行うには技術ももちろん必要ですが、コミュニティの一員としての価値を、患者さんご本人にわかっていただく努力が必要だと考えたのです。できる範囲でいい、草木の水やりとか、そういうことをしていただくリハビリテーションもいいのではないかと考えました。

それから30年近く経ち、高齢者のリハビリテーションのあり方も大きく変化しましたが、老健のリハビリテーションでも、ご本人が参加する意欲をもって取り組むことができるかどうかが、成果に直結するのではないかと思います。逆に言えば、モチベーションを上げていく支援ができなければ、どんな技術をもっていても“のれんに腕押し”のリハビリテーションになってしまう気がします。

生活を再建することがリハビリテーションの主眼

土肥 全国理・作校協会会長(以下、土肥) リハビリテーションには一般的に「技術」、「訓練」というイメージがありますが、決してそれだけではありません。
“その人の生活を再建すること”がリハビリテーションの主眼です。そのために、どういうサービスを計画していくかという話になりますから、当然、精神的なサポートも非常に大きな部分を占めることになります。技術ももちろん必要ですが、技術はそれからあとについてくる話です。あの患者はやる気がないとか、かつての医療関係者はよく言っていました。しかし、それは完全に間違いです。私に言わせれば、動機づけをできなかったほうが悪いのです。
学生時代にそれらのことをきちっと学べば、どうやって動機づけができるのだとか、まだ自分一人じゃできないことがいっぱいあることがわかります。ですから、最初はいろんな人に助けてもらう必要があります。もちろん一人前になるためには、技術についても精神的援助についても、それなりのキャリアが必要になります。
リハビリテーションは、そうむずかしいものでもありません。しかし、何が目的かをしっかり押さえておく必要があります。
リハビリテーションの専門職になろうとする学生教育の基本はそこにあります。

「維持期」にはしなくてはならないことがたくさんある

川合 リハビリテーションについては、急性期、回復期、維持期という分類がよく使われます。だからでしょうか、急性期が上流で維持期が下流、だから急性期のほうが上級という考え方も根強くありますね。

土肥 急性期、回復期、維持期という分け方は以前からありますが、それらは実際には循環しているわけですから、どこが上流だとか上級だとかということはありませんし、その考え方はナンセンスです。
どのようなリハビリテーションをいつから始めたらいいかはケースバイケースです。ある程度療養した後で始めたほうがいい人だっているし、予め準備して手術後すぐに行うほうがいいケースもあります。
そこのところが日本の場合、ちょっと固定概念が強すぎるように思います。皆さん勘違いしている。国民もそうです。一方で、リハビリテーションに関して期待はものすごく大きい。エビデンスも何もない、ちょっと非科学的な期待すらあります。
「維持期」という言葉はあまりいい言葉ではありません。「維持期」というからもう何もすることがないというイメージにとらえる人もいますが、実はしなくてはならないことが山ほどあります。リハビリテーションを専門にするプロフェッショナルであれば、維持期をきちんとみることができなかったら、商売にならないともいえます。
急性期は、ある意味、人間の回復力で治っている。急性期をちょっとやると、結果が出るものだから2、3年も経験すると自信満々になりますが、そのうち化けの皮が剥がれる。
維持期でちょっとした障害、歩きにくいとかで困っているケースに、上手に対応できるようになって初めて一人前といえるわけです。それを考えると、一人前になるまでには卒業して7、8年かかりますよ。

川合 その意味では、新卒のリハビリテーション専門職の方々を引き受けた老健は、しっかりとした教育ができなくてはなりませんね。

土肥 それは期待したいところです。老健ももう、かつてのようなリハビリテーション専門職が1名だけというところはほとんどないでしょうから。
急性期医療にはやることがたくさんあって、維持期医療にはあまりないというイメージは、一部正しいかもしれません。けれどそれをそのままリハビリテーションに当てはめられても困る。一番大きな問題は家族間の関係であったり、精神的な問題であったりする。ちょっとしたことで機能改善する人もいっぱいいる。
現代や将来においては、維持期モデルへの対応がものすごく大きなものになります。維持期モデルへの対応には、医療モデルだけでなく、その人の生き様とか、さまざまな要素が関与している。家族関係、社会関係、仕事関係の調整、その人がどういうことに生きがいを感じているか。そういうことがわからなくてはできないのです。
逆説的な言い方になりますが、だからこそ維持期はものすごくおもしろいといえるのです。
そして、チームアプローチがとても重要になります。

川合 チームアプローチというのは、われわれ老健が20年間、試行錯誤を繰り返しながら取り組み続けていることです。土肥先生が指摘されたように、それはまさに、維持期へのアプローチはチームでなければできないからです。
その意味で、リハビリテーション専門職のフレッシュマンの活躍の場として、老健はふさわしいと考えています。

地域の老健と学校がより緊密な付き合いを

土肥 今、リハビリテーション専門職を養成する学校は約220校あります。
老健の場合、理学療法士だけでなく作業療法士も十分活躍できるでしょう。言語療法士もそうかもしれません。老健の在宅復帰という機能を考えると本来だったら作業療法士のほうが向いているといえるかもしれません。それにこれからは認知症の知識なしには、高齢者のリハビリテーションは難しい。その意味でも作業療法士の積極的な関与が期待できると思います。
老健はそうたくさん知っているわけではありませんが、最近はずいぶんよくなった印象を持っています。
今、リハビリテーションをよくやっている老健と、リハビリテーションセンターは、実質あまり変わらないのではと思います。逆に言うと、老健の利用者と病院にいる維持期の患者とどこが違うのだろうかとも思いますよ。

川合 先生それを声を大にして言ってください(笑)。

土肥 教育現場も時代の変化に対応して変わっていかなければならないところがずいぶんあります。
老健は大きく変化していますね。特にリハビリテーションの部門では。そういう現場の変化はなかなか教員はわからないわけです。
この間、私どもの団体も協力させていただいて、全老健がDVDを作っていただきましたが、なかなか好評です。ああいう教材で、今の老健の実像を学生に伝えていくことも教育側には必要でしょう。
個々の老健については、いま一番いいのは実習を受けていただくことです。実習をしてもらうためにはどうしても複数の理学療法士なり作業療法士なりが必要ですが、今はそういう老健も多いと聞いています。

川合 今、全国平均で、老健1施設あたり3、4人のリハビリテーション専門職がいます。

土肥 ならば、指導体制の組める老健も多いと思います。学生は実習で現場を知り、われわれ学校の教員と老健のスタッフが顔の見える付き合いができるようになれば、最初から老健へ就職する人が、これからもっと増えてくるのではないかと思います。

川合 おかげさまで老健は全国に3,500施設、全老健の会員はそのうち95%の3,300施設ほどあります。つまり、学校のそばには必ず老健があるはずです。実習や見学などをとおして、現場レベルでの老健と学校の付き合いが緊密に、より深くなるよう努力していきたいと思います。

(役職等は2008年8月31日公開時点のものです)