インタビュー「能力を発揮するチャンスが広がっている」
撮影◎丹羽 諭(2011年1月31日公開)
基本的には、労働はどんな業種であっても貴く重要なものですから、ことさら「介護だけが重要」と言うつもりはありません。ただ、わが国においては、少子・超高齢・人口減少という社会構造の変化があり、これからそれにますます拍車がかかる状況の中に「介護労働」があるという厳然たる事実があります。2010年から、いわゆる団塊世代が65歳以上となり、10年間で1800万人ほどが高齢者領域に入ります。一方、第二号被保険者でとなる40歳以上も1300万人程度増加します。
つまり、(介護サービスを受けるかどうかは別に)これから介護保険のゾーンに入る年齢の方が量的に急増する。これはどのようなかたちにせよ介護保険に関係する人が増えるということであり、その中でどのような変化が起きるのか。まだ想像できない部分もあります。
量の問題とともに、質の問題もあります。私もまだこの立場になって日が浅いのですが、医療や介護という業務は、物理的な側面より精神的な側面が非常に重要な仕事だと思います。人間と人間がぶつかりあうわけなので、いろんなことが起こるでしょう。実は私の妻も介護労働者として働いていて、話をよく聞くのですが、人間と人間の関係性の中でのサービスなのでなかなか決めたとおりにはいかないといいます。
そういう仕事であればこそ、質が問われます。質を担保するには安定的な雇用が必要です。そこで、私ども介護労働安定センター(以下、センター)として取り組んでいかなければならないと考えていることの第一が、「介護の労働」を確立することです。ちなみに、今はボランティアの議論が盛んですが、「介護はボランティアで」という話が大きくなりすぎると、「介護の労働っていったいなんだろう」ということにもなりますので、長期展望の中での介護とボランティアの議論はともかく、まずは「労働」としての介護の整理をきっちりと行うべきです。
介護従事者については、その歴史的経緯もあり、労働契約というものの整理が一般のサラリーマンなどと比べると十分でありません。介護保険制度や法律も変わっていきます。
私どもがかかわる介護事業者さんの数は2万2000ぐらいで、従業者数20人以下の事業所さんが50%以上を占めています。となると労働契約を杓子定規に当てはめて適用するというのは現実問題として難しい。当然新規参入もある。そういう状況の中で私どもセンターが役割を発揮しなければならないのは、特に新規参入事業者の方や中小の事業者の方と、本音で話し合い、相談に乗らせていただくことと考えています。
私どもセンターが行っている相談援助の内容は、雇用管理の相談援助で約12万件、能力開発スキルアップで約3万件です。
まず、事業者さんの経営が安定しなければならない。そして介護労働従事者との労働契約をきちんとする風土を築いていきたい。同時に、介護労働者の賃金水準を向上させていきたいのです。それが質の担保にもつながっていくからです。
そのためにセンターでは、職員の研修についても力を入れています。これには2つあり、各種の研修を実施するということと、その研修に事業者さんが職員を派遣しやすくするための施策です。
また、介護のキャリアアップのルールをどのように考え、整理し、実践していくかについても検討しています。事業所の規模によってその適用方法にも工夫が必要だと思います。
経済界には「規模は大きければいい」といった「大きいもの勝ち」の発想がありますが、これが介護にも当てはまるのでしょうか。もし当てはまらないのであればどうすればいいのか。私見ですが、自由競争一辺倒では、これからのわが国の介護問題を乗り越えることはできないと考えています。
私どもセンターは法律に基づいて設立された財団法人として、その設立趣旨を広く発信していかなければなりません。また介護という業種としてネットワークを組んでいるということも上手に活かしていかなければなりません。平成12年から行っている「介護労働実態調査」は、厚労省の審議会等でもよく取り上げられるようになりましたが、このような調査研究事業の推進も情報発信の力としてより活かしていきたいと思います。常々、全老健・加盟事業者の皆さまには多くのご協力をいただきありがとうございます。今後、介護労働実態調査をより充実させ、分析・研究から「提言」へまとめることを視野に入れ、さらなる連携と力合わせをお願いいたします。
最後に、これから介護で働こうと考えていらっしゃる皆さんに申し上げたいことがあります。
平成20年で128万人の介護労働者がいたのですが、これがあと15年経つと210万人から260万人、およそ倍必要になる。ところが128万人のうち、15年経つ間に当然年齢的にリタイヤされる方がいる。それを考えると必要数は倍どころではありません。
ということは、今、介護の世界に入った人は15年後には介護業界の年齢構成の中で確実に真ん中より上になる。つまり、ベテランとなりリーダーとなっていくということです。もちろん、ご本人の希望次第ではありますが、希望すればキャリアアップがしやすい状況にある。能力が発揮できるチャンスがある。
介護はわが国がかかえる大きな問題です。チャレンジしがいのある仕事です。やる気のある皆さんにぜひ興味をもっていただきたいと思います。
【介護労働安定センターの事業等についてはホームページをご覧ください。本サイトのトップページにバナーがありますからそこからすぐにご覧いただけます】
介護労働安定センター理事長
久志 実さん
(役職等は2011年1月31日時点のものです)
つまり、(介護サービスを受けるかどうかは別に)これから介護保険のゾーンに入る年齢の方が量的に急増する。これはどのようなかたちにせよ介護保険に関係する人が増えるということであり、その中でどのような変化が起きるのか。まだ想像できない部分もあります。
量の問題とともに、質の問題もあります。私もまだこの立場になって日が浅いのですが、医療や介護という業務は、物理的な側面より精神的な側面が非常に重要な仕事だと思います。人間と人間がぶつかりあうわけなので、いろんなことが起こるでしょう。実は私の妻も介護労働者として働いていて、話をよく聞くのですが、人間と人間の関係性の中でのサービスなのでなかなか決めたとおりにはいかないといいます。
そういう仕事であればこそ、質が問われます。質を担保するには安定的な雇用が必要です。そこで、私ども介護労働安定センター(以下、センター)として取り組んでいかなければならないと考えていることの第一が、「介護の労働」を確立することです。ちなみに、今はボランティアの議論が盛んですが、「介護はボランティアで」という話が大きくなりすぎると、「介護の労働っていったいなんだろう」ということにもなりますので、長期展望の中での介護とボランティアの議論はともかく、まずは「労働」としての介護の整理をきっちりと行うべきです。
介護従事者については、その歴史的経緯もあり、労働契約というものの整理が一般のサラリーマンなどと比べると十分でありません。介護保険制度や法律も変わっていきます。
私どもがかかわる介護事業者さんの数は2万2000ぐらいで、従業者数20人以下の事業所さんが50%以上を占めています。となると労働契約を杓子定規に当てはめて適用するというのは現実問題として難しい。当然新規参入もある。そういう状況の中で私どもセンターが役割を発揮しなければならないのは、特に新規参入事業者の方や中小の事業者の方と、本音で話し合い、相談に乗らせていただくことと考えています。
私どもセンターが行っている相談援助の内容は、雇用管理の相談援助で約12万件、能力開発スキルアップで約3万件です。
まず、事業者さんの経営が安定しなければならない。そして介護労働従事者との労働契約をきちんとする風土を築いていきたい。同時に、介護労働者の賃金水準を向上させていきたいのです。それが質の担保にもつながっていくからです。
そのためにセンターでは、職員の研修についても力を入れています。これには2つあり、各種の研修を実施するということと、その研修に事業者さんが職員を派遣しやすくするための施策です。
また、介護のキャリアアップのルールをどのように考え、整理し、実践していくかについても検討しています。事業所の規模によってその適用方法にも工夫が必要だと思います。
経済界には「規模は大きければいい」といった「大きいもの勝ち」の発想がありますが、これが介護にも当てはまるのでしょうか。もし当てはまらないのであればどうすればいいのか。私見ですが、自由競争一辺倒では、これからのわが国の介護問題を乗り越えることはできないと考えています。
私どもセンターは法律に基づいて設立された財団法人として、その設立趣旨を広く発信していかなければなりません。また介護という業種としてネットワークを組んでいるということも上手に活かしていかなければなりません。平成12年から行っている「介護労働実態調査」は、厚労省の審議会等でもよく取り上げられるようになりましたが、このような調査研究事業の推進も情報発信の力としてより活かしていきたいと思います。常々、全老健・加盟事業者の皆さまには多くのご協力をいただきありがとうございます。今後、介護労働実態調査をより充実させ、分析・研究から「提言」へまとめることを視野に入れ、さらなる連携と力合わせをお願いいたします。
最後に、これから介護で働こうと考えていらっしゃる皆さんに申し上げたいことがあります。
平成20年で128万人の介護労働者がいたのですが、これがあと15年経つと210万人から260万人、およそ倍必要になる。ところが128万人のうち、15年経つ間に当然年齢的にリタイヤされる方がいる。それを考えると必要数は倍どころではありません。
ということは、今、介護の世界に入った人は15年後には介護業界の年齢構成の中で確実に真ん中より上になる。つまり、ベテランとなりリーダーとなっていくということです。もちろん、ご本人の希望次第ではありますが、希望すればキャリアアップがしやすい状況にある。能力が発揮できるチャンスがある。
介護はわが国がかかえる大きな問題です。チャレンジしがいのある仕事です。やる気のある皆さんにぜひ興味をもっていただきたいと思います。
【介護労働安定センターの事業等についてはホームページをご覧ください。本サイトのトップページにバナーがありますからそこからすぐにご覧いただけます】
介護労働安定センター理事長
久志 実さん
(役職等は2011年1月31日時点のものです)