全老健では介護人材に関して協議を続けています。
(平成25年度第2回管理運営委員会人材問題対策部会)
全老健では、介護人材について広く協議する場として管理運営委員会人材問題対策部会という委員会を設けています。
平成26年3月17日の平成25年度第2回会議では、現場からの報告や、人材確保についての提案と問題提起、意見交換が行われました。
これから介護業界をめざす方、現在介護業界で働いている方など、皆様にお読みいただきたい内容です。
今回は全老健の機関誌である『老健』平成26年6月号に掲載された、会議レポートを掲載します。
非常に重たい喫緊のテーマ
覚悟ある具体的な話を期待
冒頭、全老健管理運営委員会の本間達也委員長の開会挨拶に続き、全老健の平川博之副会長は、「人材問題は非常に重たく、また、急いで取り組まなければならないテーマであり、総理大臣も声を上げながら、国としてもこの問題について取り組む姿勢を強く出している。しかし、ただ会議を重ねていても意味を成さないので、この問題に関わる方は覚悟をもって具体的な話をしてもらいたい。この部会でざっくばらんに議論し、その内容を全国の老健施設にも発信していきたい」と述べた。
次に、太田部会長をはじめ、部会員やオブザーバーが自己紹介を行った後、オブザーバーの公益社団法人国際厚生事業団の角田隆専務理事、同じくオブザーバーの医療法人敬英会の光山誠理事長、部会員の介護老人保健施設あこがれの大島扶美理事長、太田部会長がプレゼンテーションを行った。
EPA 看護師・介護福祉士候補者の
活用のための取り組み説明
角田専務理事は「EPA 介護福祉士候補者の現状」として、候補者受け入れ人数の推移、国家試験の合格状況、就労・帰国者の現状、日本語の習得状況、これまでの候補者受け入れに係る取り組みおよび候補者の学習支援事業概要、日本語の習得状況などについて説明。このなかで、「現場での反応として、利用者・職員ともに4分の3が『良い』または『おおむね良い』といっている。ただし、申し送りや記録作成といった日本語の技術が関わることに関しては『苦手』または『やっていない』が依然として多い」と報告した。
続いて、光山理事長が「日越経済連携協定(EPA)による看護師・介護福祉士候補生受け入れについて」のテーマで、ベトナムEPA の経過や現状、特殊事例、大学と連携した取り組みなどの情報を提供した。光山理事長は「介護人材の質と量の確保を確かなものにするためには、最終的には国内外を問わず、労働力の貸し借りを行うしかない。そのためには、外国人を受け入れる上で、日本の魅力をどのようにつくっていくかということが大切である。その上で、質の高い人材を、量的な視点も含め、計画的・戦略的・組織的に活用していかなければならない」と訴えた。
2人の発表に対し、「EPA 候補者は来日にどのような魅力を感じているか」という質問があがった。これに対し、光山理事長は「例えば、ベトナムであれば就職率は高くないと聞いている。そのため、働くための選択肢として日本をみている人はいると思う。また、文化交流や経済交流などの背景も含め、親和性が高いため、そこに魅力を感じてくれているのではないかと感じている」と回答。角田専務理事は「やはり日本の給与の方が高いということも、1つの大きな魅力となっていると感じる」と述べた。
また、「EPA 候補者たちが、日本で働く上で、意欲的にチームの一員だと思いながら働くためにはどうしたらよいか」という質問に対しては、角田専務理事は「日本語がわからないために意欲的になれていないことが多いと感じている」、光山理事長は「就労経験のない、学校を卒業したばかりの人であれば、多少言葉の壁があっても職場になじみやすいのではないかと思う」と、コミュニケーションの重要性が指摘された。
国内の介護職希望者たちを
すくい上げる取り組みを
大島理事長は、自身が参加する山形県介護職員サポートプログラム策定委員会での資料を用いながら、国内における人材対策について意見を表明。「初任者研修制度はホームヘルパー制度と比べ、座学の時間も受講料も増えている。養成校においても国家試験に合格しなければ資格取得できなくなろうとしている。これは介護に携わろうとしている人の窓口を狭めている」と述べたうえで、「海外の人材に目を向けることも大切だが、まずは国内にいる、介護職を希望している人たちをすくい上げる取り組みに力を入れていくことが重要ではないか」と問題提起した。
認定介護福祉士のねらいは
中堅層・リーダー層の育成
最後のプレゼンテーションとして、太田部会長が発表。自身が委員長を務める日本介護福祉士会の「認定介護福祉士(仮称)の在り方に関する検討会」が昨年3月に公表した「認定介護福祉士(仮称)制度の方向性について」の中間まとめを提示し、検討内容および経緯等を中心に、今後の介護人材問題についての見解を示した。
認定介護福祉士制度のねらいについては、①専門職としての資質を高める、②介護福祉士に対する社会的評価を高める、③介護福祉士の資格取得後のキャリアパスを整備する—の3点をあげ、「チームを束ね、若い人を育てていく力を養うことが大切。そのため、これからの課題である、中堅層・リーダー層をどのように育てていけば良いのか、という検討をしてきた」と述べた。
その上で、「これからは量と質の問題を総合的に考えていくことが大切。それに伴い、自治体が人材育成に責任をもち、自治体レベルでの検討を行っていく必要がある」と主張。「医療と介護の連携会議のような場は増えてきたが、老健施設や療養病棟の人はまだ入ってきていない。早い時期に中堅の議論を進め、地域に根ざした仕組みづくりをすることが大切なので、皆様にも一緒に考えてもらえたらありがたい」と協力を求めた。
部会員の東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科の本名靖教授は、「1人が力を発揮することで、チーム全体が変わることはあり得る。認定介護福祉士だけではなく、チーム全体としての調和のなかでどう折り合いをつけていくのか、ということが今後の研究課題だと考えている」と話した。
平川副会長は、「介護職の代表として、医療や看護、さらには世間に対して発言できる人材が少ないことが現在の課題である。その前提からも、認定介護福祉士はなくてはならないと感じている。認定介護福祉士は、いまの介護職に対する社会的評価の低さを打開する1つのツールにもなり得ると考えている」と述べた。
都道府県、市町村レベルで
入職・離職者数を明らかに
こうした発表を受け、部会員の独立行政法人労働政策研究・研修機構の堀田聰子研究員が発言。
「いま試算されている入職者・離職者の数は、どこから・どの程度、また、どのようなイメージやニーズをもっているのか、という具体的なものは把握されていない。実際は都道府県、ひいては市町村レベルでも異なるものなので、明らかにしていく必要がある。今後必要とされる介護職員数の試算についても、認定介護福祉士などの中堅層・リーダー層の育成が進むことで、その人数は減らせるかもしれない」と述べた。その上で、「将来的にも人材不足が見込まれるからこそ、役割分担を進めていくことが必要。一つひとつの事業所に何人ではなく、そのエリアでどのような機能をもつことが必要かという戦略を練ることもあり得るのではないか」と指摘した。
介護福祉士のキャリアパスについては、「自分がやっていることが、事業所の提供しているサービスの質の向上につながっていると実感できるようなものでないと、キャリアパスの整備により職員の意欲が向上する、という形にもっていけないのではないか。そのようなポイントを見える化していくことが重要だと感じている」と提案した。
大島理事長は、「がんばっている人たちをどう評価して伸ばしていけるか、という仕組みをどのようにつくっていくかが大切」と述べた。試算されている入職者・離職者の議論を受け、本名教授は、「この数字には地域差があって、より深刻な地域もあれば、そうでもない所もある。いまは大雑把な数字でみんなが動いていると感じている。地域による温度差を明らかにし、もっと総合的に考えていかなければならない」と指摘。
また、「下の人を指導するポジションに差し掛かる年齢で離職していく人が多い。理由は、女性であれば結婚・出産・育児、男性は給与面などが大きいのかと思うが、その部分に、どのように手厚く対応するのかを考える必要がある。そうでなければ専門職として成り立たないのではないか。誰でもできる職業ではなく、専門職だということをどんなことがあっても忘れてはならない。研修を受け、技能を高めていくことが、専門職として当たり前の前提だという認識を皆が共有することが重要だ」との見解を示した。
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【参加者】
- 平川 博之
(全老健副会長/介護老人保健施設ハートランド・ぐらんぱぐらんま 理事長) - 本間 達也
(管理運営委員会 委員長/介護老人保健施設生愛会ナーシングケアセンター 理事長) - 太田 貞司
(管理運営委員会人材問題対策部会部会長/聖隷クリストファー大学社会福祉学部 教授) - 大島 扶美
(管理運営委員会人材問題対策部会部会員/介護老人保健施設あこがれ 理事長) - 根本 伊左夫
(管理運営委員会人材問題対策部会部会員/介護老人保健施設ハートランド・ぐらんぱぐらんま 事務長) - 堀田 聰子
(管理運営委員会人材問題対策部会部会員/独立行政法人労働政策研究・研修機構 研究員) - 本名 靖
(東洋大学 ライフデザイン学部 生活支援学科 教授)
- 角田 隆
(公益社団法人国際厚生事業団 専務理事) - 光山 誠
(医療法人敬英会 理事長) - 山野 雅弘
(管理運営委員会安全推進部会部会長/介護老人保健施設紀伊の里 施設長) - 櫛橋 弘喜
(管理運営委員会安全推進部会部会員/介護老人保健施設ひむか苑 施設長)